障がい福祉サービスの指定申請 就労支援で開業する流れと書類を解説

2026.07.23

就労継続支援A型やB型、児童発達支援・放課後等デイサービスなど、障がい福祉サービスで開業するときに最初に立ちはだかるのが「指定申請」です。事業所は都道府県や市町村から「指定」を受けて初めて利用者への給付費(報酬)を請求できます。逆にいえば、どれだけ立派な建物と支援計画を用意しても、指定が下りるまで報酬は1円も入りません。

指定申請は「書類を出せば通るもの」ではなく、法人・物件・設備・人員のすべてが基準を満たして初めて認められる開業の最初の関門です。この記事では、障がい福祉サービスを10年以上運営してきた実績をもとに、指定申請の全体像・必要書類・標準処理期間、そして現場でつまずきやすい落とし穴までを具体的に解説します。

指定申請とは──「指定」を受けて初めて報酬請求ができる

障がい福祉サービスは、障害者総合支援法にもとづき、都道府県知事(または政令市・中核市の長)から「指定障害福祉サービス事業者」の指定を受けた事業者だけが提供できます。指定を受けるとは、厚生労働省令で定める人員・設備・運営の基準(指定基準)を満たしていると公的に認められ、給付費を請求する資格を得ることです。

ここが福祉事業の独特なところで、売上の土台は利用者からの料金ではなく公費(給付費)です。指定を受けていない状態でサービスを提供しても報酬請求はできず、無指定営業は行政指導の対象になります。だからこそ、開業スケジュールは「いつ物件が決まるか」ではなく「いつ指定が下りるか」から逆算して組むのが鉄則です。

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指定申請の大前提 法人格が必須

指定を受けられるのは法人だけです。個人事業主のままでは申請できません。株式会社・合同会社・NPO法人・社会福祉法人・一般社団法人など、法人格の種類は問わず参入できますが、いずれも定款の「事業の目的」に、これから行う障がい福祉サービスを明記しておく必要があります。目的の記載が漏れていると、定款変更・登記のやり直しで数週間ロスします。

すでに別事業で法人をお持ちの場合も、事業目的の追加登記が要るケースがほとんどです。「法人はあるから大丈夫」と思い込まず、定款の目的欄を最初に確認してください。

指定申請までの全体像 開業までの7ステップ

指定申請そのものは手続きの一部にすぎません。開業までの流れを俯瞰すると、次の7ステップになります。

  1. 法人を設立する障がい福祉サービスの指定は法人格をもつ事業者にしか与えられません。株式会社・合同会社・一般社団法人・NPO法人・社会福祉法人などの法人を設立します。このとき定款の「事業目的」に、行う障がい福祉サービスを法令上の名称で明記する必要があります(例:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく就労継続支援B型事業」)。目的の記載が漏れていると、後日、定款変更・登記のやり直しが必要になり指定が遅れます。設立登記の完了後、登記事項証明書を指定申請書類に添付します。
  2. 自治体に事前相談・事前協議指定権者(都道府県・市など)の窓口で、開設の意向・立地・想定する種別を相談。総量規制の状況もここで確認します。
  3. 物件を確保し設備基準を満たす面積・訓練作業室・相談室・トイレ・消防設備・建築基準を満たす物件を契約し、必要な改修を行います。
  4. 人員を確保する管理者・サービス管理責任者・職業指導員・生活支援員など、指定基準の人員を採用・配置します。
  5. 指定申請書類を提出する申請書・付表・各種添付書類を、自治体が定める提出締切(開業希望月の前月・前々月が多い)までに提出します。
  6. 審査を受ける指定権者が書類を審査し、必要に応じて補正・実地確認。標準処理期間はおおむね1〜2か月です。
  7. 指定を受けて事業開始原則として毎月1日付で指定。指定日から運営開始・給付費の請求が可能になります。
障がい福祉サービスの事業所開設に必要な物件・設備のイメージ

ステップ2 事前相談・事前協議がカギ

指定申請の成否は、書類作成そのものよりも、その前段階である「事前協議」で大きく左右されます。指定権者によっては、事前協議を経ていない申請は受理しない運用をとる場合があり、実務上は必須の手続きと位置づけられています。事前協議の段階で確認すべき事項は、主に次の3点です。

  • 総量規制の状況(当該圏域で新規指定を受けられる余地があるか。総量規制の対象サービスでは、需要が計画量に達している地域で指定が制限されることがあります)
  • 想定する定員・種別が地域の障害福祉計画に整合するか
  • 物件・図面が設備基準を満たすか(賃貸借契約を締結する前に確認することが望まれます)

とりわけ物件については、契約後に相談室の不足や訓練・作業室の面積不足が判明すると、指定要件を満たせず計画全体が頓挫しかねません。物件を本契約する前に、図面を持参して指定権者へ事前相談を行うことが、結果的に最短の進め方となります。

ステップ3 物件・設備と消防・建築の基準

事業所には、サービス種別ごとに必要な部屋と面積が定められています。就労継続支援B型なら訓練・作業室、相談室、洗面・トイレ、多目的スペースなどが必要で、利用者が安全かつプライバシーを保って過ごせることが求められます。あわせて次の法令もクリアしなければなりません。

  • 消防法:消防設備・避難経路。用途変更で消防同意が必要な場合あり
  • 建築基準法:用途地域・検査済証・用途変更(200㎡超などで確認申請が要る場合)
  • バリアフリー:段差・手すり・車いす対応など利用者に応じた配慮

中古テナントを借りる場合、建物の「検査済証」がないと用途変更でつまずくことがあります。これも事前協議・内見の段階で確認しておきましょう。

ステップ4 人員基準を満たす サビ管確保が最大の壁

指定申請の実務で、多くの開業者が最も苦労するのが人員の確保、とりわけサービス管理責任者(サビ管)です。サビ管は実務経験と所定の研修(基礎研修・実践研修)の修了が要件で、不在のまま運営すると指定基準違反となり報酬が減算されます。採用市場でも取り合いになりやすく、「物件は決まったのにサビ管が採れず開業がずれる」ことは珍しくありません。

就労継続支援B型の人員基準(目安)は次のとおりです。

職種配置基準(就労継続支援B型の例)
管理者1名(常勤。他職種との兼務可の場合あり)
サービス管理責任者利用者60人以下は1人以上。61人以上は、60を超えて40またはその端数を増すごとに1人を追加
職業指導員・生活支援員2職種の合計で常勤換算 利用者10:1以上(=最低基準)。各1名以上を置き、うち1名以上は常勤。より手厚い7.5:1・6:1で配置すると基本報酬が上がる

人員配置基準で誤解が生じやすいのが、職業指導員と生活支援員の比率です。「職業指導員と生活支援員をそれぞれ利用者10:1で配置する」のではなく、両職種を合わせた常勤換算数が利用者10:1以上となるように配置し、かつそれぞれ1名以上を置き、うち1名以上を常勤とすることが最低基準です。

さらに重要なのが、この配置比率が基本報酬に直結する点です。就労継続支援B型の基本報酬は「①利用定員」「②人員配置」「③前年度の平均工賃月額」の3要素で決まり、人員をより手厚く配置するほど基本報酬の単価が上がります。人員配置は10:1(最低基準)だけでなく、より手厚い7.5:1、そして令和6年度(2024年度)の報酬改定で新設された6:1の区分があり、6:1がもっとも高い単価(就労継続支援B型サービス費(I))となります。つまり人員配置は「基準を満たすか」だけでなく「どの区分で運営するか」という収益設計そのものです。この点を取り違えると、必要人員・人件費と、得られる報酬の見積もりが実態と大きく乖離します。

※この6:1は基本報酬の人員配置区分(職業指導員+生活支援員)の話で、同じく6:1が要件になる「目標工賃達成指導員配置加算」とは別のものです。

なお、配置した職員の採用・育成にあたっては助成金・補助金を活用できる場合があるため、資金計画とあわせて検討することをおすすめします。

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ステップ5 申請書類の提出と標準処理期間

準備が整ったら、自治体が定める締切までに指定申請書類を提出します。主な必要書類は次のとおりです(自治体・種別により追加あり)。

区分主な書類
法人関係指定申請書・付表、定款、登記事項証明書
物件・設備平面図、写真、賃貸借契約書、設備・備品一覧、消防・建築関係書類
人員管理者・サビ管の経歴書、資格・研修修了証、実務経験証明、勤務形態一覧表
運営運営規程、重要事項説明書、苦情解決体制、就労継続支援B型は工賃規程
財務収支予算書、資産の状況を示す書類

提出後、指定権者が審査し、不備があれば補正を求められます。標準処理期間はおおむね1〜2か月。書類が整っていれば、原則として翌月または翌々月の1日付で指定されます。逆に締切を1日でも過ぎると、開業が丸ごと1か月後ろにずれ、その間も家賃と人件費は発生します。

指定申請でつまずく3つの落とし穴

10年以上の運営経験からみて、開業前につまずきやすいのは次の3点です。事前に知っておくだけで回避できます。

1. 総量規制で「申請しても指定されない」地域がある

都道府県は、地域の必要量を上回る新規指定を拒否できる仕組み(総量規制)を持っています。対象は生活介護・就労継続支援A型/B型・児童発達支援・放課後等デイサービスなど。さらに2024年4月からは市町村が指定に意見を述べられる「市町村意見申出制度」も始まりました。つまり立地選びが指定の可否を左右します。物件を探す前に、そのエリアで新規指定枠があるかを事前協議で確認してください。

2. サービス管理責任者が採れず開業が遅れる

前述のとおりサビ管は要件が厳しく採用難。求人開始が遅れると、物件・内装が完成しても指定申請が出せません。物件と並行して、むしろ物件より早く人材採用に動くのが安全です。

3. スケジュールの読み違い(締切と毎月1日指定)

指定は原則「毎月1日付」。申請締切を1日過ぎれば開業は1か月先送りです。給付費の入金はサービス提供の約45日後なので、開業直後は収入ゼロで支出だけが続きます。締切と運転資金の両方から逆算した資金計画が欠かせません。

フランチャイズ本部や自治体と連携して指定申請を進める様子

就労継続支援B型に固有の指定要件

就労継続支援B型を開業する場合、上記に加えて平均工賃月額がおおむね3,000円以上であることや、工賃目標の設定・実績の報告・公表が求められます。報酬(基本報酬)は平均工賃月額に応じて決まるのが基本で、工賃が高い事業所ほど基本報酬も高くなります。「報酬を自由に選べる」わけではない点に注意してください。収益モデルの詳細は就労継続支援B型のフランチャイズは儲かる?で解説しています。

フランチャイズなら指定申請の負担を減らせる

ここまで見てきたとおり、指定申請は「法人・物件・設備・人員・書類・スケジュール」を同時並行で進める、初めての開業者には負担の大きい工程です。フランチャイズ(本部支援型)で開業する場合、この一連の作業を本部がサポートできます。具体的には、事前協議の勘所、設備基準を満たす物件チェック、申請書類のひな型、サビ管をはじめとする人材採用のノウハウなどです。

ワンライフは障がい福祉サービスを10年以上直営で運営してきた実績があり、その現場知見をそのままフランチャイズ加盟者に提供しています。指定申請でつまずくリスクを抑え、開業後の運営まで見据えた立ち上げが可能です。

▶ FC開業をお考えの方へ:就労支援フランチャイズの費用・収益モデル・本部の選び方は、総合ガイド「就労支援フランチャイズとは? 開業費用・収益・本部選びを解説」で詳しくまとめています。あわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 指定申請に費用はかかりますか?
A. 申請手数料自体は無料〜数万円程度の自治体が多く、不要な県もあります。実際の主なコストは法人設立費・物件改修費・人件費・運転資金です。給付費の入金はサービス提供の約45日後になるため、数か月分の運転資金の確保が重要です。

Q. 資格がなくても開業できますか?
A. 経営者本人の資格は不要です。ただし管理者・サービス管理責任者・支援員など、人員基準を満たす有資格・有経験の人材を配置することが指定の条件になります。

Q. 申請からどのくらいで開業できますか?
A. 指定申請の標準処理期間はおおむね1〜2か月です。ただし法人設立・物件確保・人員採用までを含めると、開業準備全体では半年〜1年程度をみておくと安全です。

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この記事の監修者
市村 均弥(いちむら きんや)
株式会社ワンライフ 代表取締役

「障がいのカタチを変える」を掲げ、障がい福祉のフランチャイズを全国に展開。福祉と多様な産業(保護犬・保護猫、eスポーツ、農業など)を掛け合わせた事業モデルで、障がいのある方の“働く選択肢”を広げている。

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